長い歴史と自然に恵まれた宇久島。ここには300年も続いている伝統のお祭りがあります。
その名は『ひよひよ祭り(竜神祭)』。神浦港にある厳島神社に伝わる夏祭りで旧暦6月17日、満月の夜に行われています。漁船へ神輿と子ども達が乗り込んで、太鼓と笛の音とともに「ひよーひよーひよー」と声をかけながら港を3周。そして宇久島の南側の沖にある〝相瀬〟まで向かい神事を行います。この不思議なお祭りの始まりは、とある民話に伝えられています。
昔々、笛の名手だった庄屋がおりました。五島で年貢納めの役を終えて安堵した庄屋は、帰りの船上で得意の笛を奏で始めます。心地よい音色に同行していた船人達もうっとりと聞き入って……我に返った時には笛の音は無く、庄屋の姿も消えていました。そこは昔から竜神がいると伝えられていた〝相瀬〟。皆は口々に「笛の音があまりに素晴らしかったので、乙姫や竜神のいる竜宮城へ連れていかれてしまったのだろう」と言いました。
それから毎年、旧暦6月17日の夜には笛の音が響きました。やがては相瀬で庄屋の供養をするようになり、祭りとして受け継がれたのです。
一説によると「ひよひよ」の「ひ」は「火」であり、火は太古から霊魂を表すもの。つまり「ひよーひよーひよー」は庄屋への呼びかけというわけですね。これまでに何度その声がこの港に響いたのでしょう。
船を彩る御神灯の光を見つめながら港に響く掛け声を聞いていると、自分も歴史の一部になったような気がします。
【取材・執筆・掲載】fully編集部
【掲載先】fullyGOTO2022夏号